2024年12月、日米欧中韓による意匠五庁(ID5)の年次大会が開催され、メタバースや生成AIなどの新技術が目覚ましい発展を遂げる状況の下での意匠に関する新たな課題が共有され、各庁が引き続き協力を進めていくことが確認されたとのことです。
ここで、メタバース等の仮想空間におけるデザインの保護については、特許庁による第16回意匠制度小委員会(2024年12月6日実施)の検討課題としても挙げられ、以下の問題点が浮き彫りになりました。
①登録意匠に係る物品等(物品や建築物、すなわち有体物)の形状等(形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合)を模した仮想オブジェクトを第三者が無断で販売等するケースでは、物品等の意匠に係る意匠権侵害は成立しない可能性が高い。
理由としては、登録意匠に係る物品等とその形状等を模した仮想オブジェクトは、用途・機能が異なる場合が多く、その場合、意匠の類似が認められないこと、また、物品等の意匠の実施は有体物に対する行為を前提としているため、無体物である仮想オブジェクトの販売等は実施に該当しないことが指摘されています。
②登録意匠に係る画像(操作画像または表示画像)の形状等(画像の視覚的要素)を模した仮想オブジェクトを第三者が無断で販売等するケースでは、画像の意匠に係る意匠権侵害は成立しない可能性が高い。
理由としては、登録意匠に係る画像の形状等を模した仮想オブジェクト(例:仮想空間上の任意の場所に配置可能なボールペンの画像)は、操作画像・表示画像に該当しない場合(保護対象とはならないコンテンツ画像の場合)が多いこと、また、登録意匠に係る画像とその形状等を模した仮想オブジェクトは、画像の用途・機能が異なる場合が多く、その場合、意匠の類似が認められないことが指摘されています。
<特許庁資料より引用>
出典:「意匠制度に関する検討課題について」
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_shoi/document/16-shiryou/03.pdf
以上の通り、仮想空間におけるデザインの保護については、現行の意匠法では限界があることから、現状では、不正競争防止法第2条第1項第3号の形態模倣行為(2023年改正、2024年4月1日より施行)として規制することが考えられます。
<参考条文>
不正競争防止法第2条第1項第3号
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
※「電気通信回線を通じて提供する行為」が新たに規制の対象となった結果、現実空間の商品の形態を現実空間上で模倣して提供する行為に加え、新たに、①現実空間の商品の形態を仮想空間上で模倣して提供する行為、②仮想空間の商品の形態を現実空間上で模倣して提供する行為、③仮想空間の商品の形態を仮想空間上で模倣して提供する行為も不正競争と位置づけられるようになりました。ただし、形態模倣行為の規制は、国内での販売開始から3年間で、依拠性や実質的同一姓等の要件が満たされた場合に限ります。また、模倣する行為自体は規制されず、模倣した商品の譲渡等が対象となります。
今後、特許庁では、生成AIなどの新技術の問題と同様、仮想空間におけるデザイン保護に関しても、意匠制度見直しの必要性や制度的措置の方向性について、より具体的な議論が進められていく予定とのことです。