マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録の代替

米国特許商標庁(USPTO)は、2025年6月2日付の官報を通じて、マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録の部分代替に関する最終規則を公表しました。当規則改正は、2021年に発効(2025年2月1日まで適用猶予)していた国際登録の部分代替を許容するマドリッド協定議定書の規則改正に対応するもので、これにより先に存在していた国内登録の商品・役務と国際登録の商品・役務が部分的に重なる場合について、代替が認められることになります。

<JETRO資料より引用>

USPTO、商標の国際登録の部分代替に関する最終規則を公表

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2025/20250602.pdf

ところで、そもそもマドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録の代替とは、各指定締約国の国内商標を国際登録に一本化するための仕組みのことを言います。国際登録より前に、対象となる国において国内登録を保有する名義人は、当該国の国内登録から生じる権利を害することなく(国内登録の出願日、優先日、登録日等の利益を引き継いで)、国内登録を国際登録によって代替する(置き換える)ことができます。

代替のメリットは、各指定締約国の国内商標を国際登録に一本化することで、各国ごとの管理が不要となり、更新や各種変更手続をWIPOの国際登録簿に対してのみ行うことで、手続負担やコスト削減を可能にする点にあります。

ここで、代替には次の要件が求められます。①商標が同一であること、②名義人が同一であること、③国際登録の保護(国際出願時の領域指定又は事後指定)が国内登録後にその指定国に及んでいること、④国際登録に国内登録の指定商品・役務が含まれていること。

以上の4つの条件を満たす場合に、自動的に代替の効果(国内登録の出願日、優先日、登録日等の利益を引き継ぐ効果)が発生します。すなわち、国内登録は自動的に国際登録に置き換わることになります(マドリッド協定議定書第4条の2(1))。

<世界知的所有権機関日本事務所資料より引用>

マドリッド制度における「代替(Replacement)-各国の国内商標をマドリッド国際登録に一本化する仕組み-

https://www.wipo.int/export/sites/www/about-wipo/ja/offices/japan/docs/replacement-2022-3.pdf

ただし、日本においては、代替後に国内登録を消滅させることは既得権を害すること、議定書では国際登録と国内登録を併存可能であることを前提としていること、国際登録による国際的な一括管理の利益のため、名義人は国内登録の更新をしない可能性があり、併存状態は解消し得ること、さらに、商標原簿・公報でその旨を公示することなどを考慮し、国内登録を国際登録に置き換えることなく併存させています。

なお、代替は条件を満たせば自動的に効果が発生しますが、効果が発生しているか否かを明示的に確認するための仕組みとして、代替の記録の申請という手続きがあります(マドリッド協定議定書に基づく規則第21規則(1))。

すなわち、名義人は指定締約国の官庁に対し、当該国の国内登録簿に国内登録が国際登録によって代替されている旨を記録する申請を行うことができます(様式、手数料、現地代理人の要否は各国によります)。当該申請は、WIPOによる指定国への国際登録による領域指定又は事後指定の通知の日以降に行うことができ、指定締約国の官庁は、申請により代替を記録した場合、その旨を国際事務局に通報し、国際事務局は通報された表示を国際登録簿に記録・公報に掲載し、その旨を名義人に通知します。

以下は、代替が記録されている具体的事例(日本が指定国の事例)で、Transactionの欄に「Replacement of national registration by an international registration, JP 」の記録があります(Madrid monitorより抜粋)。