商標法には、他の産業財産権法と同じく先後願に関する規定が設けられており、異なった日に二以上の出願があった場合には、最先の出願人のみが商標登録を受けることができる旨が規定されています(商標法8条1項)。※ただし、類似関係にある商標出願で、それらが同一出願人によるものである場合を除きます。
一方、同一又は類似関係にある商標が同日に出願された場合には、協議により商標登録を受けるべき者を定めることになっており(商標法8条2項)、この点については特許法などとも同じ規定になっていますが、協議が不成立となった場合の取扱いが特許法などとは相違しています。例えば、特許法では協議不成立の場合はいずれもその発明について特許を受けることができない旨が規定されていますが(特許法39条2項)、商標法では「くじ」により商標登録を受けるべき出願人を定めることになっています(商標法8条5項)。商標法においては、先願が拒絶されても先願権が残らないことから(同3項)、拒絶になった商標と同一又は類似の商標について、過去に先願があったという理由によって後願が拒絶されることはないため、協議不成立の場合に協議の当事者の双方とも商標登録を受けることができないものとすると、その後に同様の商標登録出願をした者(当事者及び第三者を含む)に商標登録をしなければならないという不合理が生じるためです。
ところで、協議命令が出されたのち、協議不成立となって「くじ」が実施されることになった場合において、それぞれの協議命令の相手との「くじ」を実施しても、いわゆる「すくみあい」(=事態が進行せず身動きが取れない状況)が生じる場合があります。この点については、「商標審査便覧」に具体的な事例が示されています。

<特許庁HPより> 「商標審査便覧」44.02 複雑な競合関係にある商標法第8条第5項に係る 「くじ」の実施方法について(審査事例)
上記事例の場合、それぞれの協議命令の相手との「くじ」(つぎの①~⑤)を実施しても「すくみあい」が生じる場合があるため、全体として相対的順位を決定する必要があります。すなわち、①AとD、②BとDとE、③CとE、④DとAとB、⑤EとBとCでそれぞれ「くじ」が行われても、例えば、③のくじの結果Cが1位、⑤のくじの結果Eが1位となった場合、CとEは「すくみあい」の状態になってしまいます。そこで、5件まとめて1回の「くじ」により相対的な順位を決定した上で、競合する出願間における一の商標登録出願人を順次決定する手法がとられることになります。
1回の「くじ」により整理する利点は、「すくみあい」が生じないこと以外にも、処理の迅速性、出願人の出頭等に係る負担軽減が挙げられます。また、公平性の観点からいっても、競合相手のみとの「くじ」と競合相手外の者が参加する「1回のくじ」を比較した場合、競合相手の出願との関係で第一順位になる確率は同じであることから、「1回のくじ」による場合でも特定の者の出願が有利若しくは不利となることはないとされています。
なお、「くじ」が実施されることになった場合の実施通知書(ひな形)や、「くじ」の実施に係るモデルケースについて、上掲の「商標審査便覧」に詳細が掲載されています。