今月、愛知県内にある自治体が、全国紙の新聞記事のデータを無断で庁内のイントラネットで共有していたとして、新聞社から損害賠償を請求されたというニュースがありました。また、新潟県にある自治体が、同市が行うクラウドファンディングのホームページなどに、同県内でタウンジャーナルのサイトを運営する会社が撮影した写真を無断使用していたとして、賠償金を支払ったというニュースもありました。こうした著作権トラブルの背景には、著作権に対する理解不足がある一方で、デジタル化の進展により、ネット上で公開されている他人の著作物を簡単に入手できる環境にあることも起因していると考えます。
ところで、著作権法では、著作物の利用を一律に禁止しているわけではなく、一定の条件を具備する場合、著作権者の許諾なく著作物の利用を許容する権利制限規定が設けられています。その一つが、同法32条1項に規定されている「引用」です。
32条1項 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
ここで、上記条文にある通り、引用の対象となる著作物はあくまで公表されたものであって、そもそも引用元となる著作物が非公開である場合はNGです。場合によっては、著作者人格権の一つである公表権の侵害に該当するリスクもあります。
また、上記条文には「公正な慣行に合致するもの」や「正当な範囲内で行われるもの」という漠然とした文言が含まれていますが、少なくとも、引用した部分が明確に区別されていること、自己の著作物が主で引用した部分が従の関係にあること、出所を明示することなどが求められます。さらに、引用した部分の修正や歪曲などの改変を行わないことも重要です。場合によっては、著作者人格権の一つである「同一性保持権」を侵害するおそれもあります。
なお、引用とは別に、同条2項には「転載」についての規定もあります。
32条2項 国等の周知目的資料は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りではない。
転載は、他人の著作物の全体あるいはその大部分をそのまま利用する行為とされ、引用とは区別されています。いずれにしても、著作権侵害(場合によっては著作者人格権の侵害を含む)に該当しないよう、引用や転載にあたっては、事前に要件を満たすかどうか確認することが肝要です。