クリニック(診療所)の名称からなる文字商標をめぐって争われた無効審判の審決に対する取消訴訟(令和7(行ケ)10072)について、昨年末、原告側の請求が棄却される判決が下されました。事件の背景は、愛知県内で皮膚科を専門とするクリニックを開設している医師(被告側)が有する登録商標第6155848号の「あおば皮膚科クリニック」(標準文字、第44類「医業」を指定)に対して、「あおば皮フ科クリニック」及び「白金あおば皮フ科クリニック」の名称で診療所を開設している都内の医療法人社団(原告側)が請求した無効審判(無効2024-890033)で請求不成立の審決が下され、これを不服とした原告側が本件訴えを提起したものであり、とりわけ、被告側の商標が商標法3条1項4号、同6号に違反して登録されたものであるか否かが争われましたが、当該無効理由には該当しないとして、請求が棄却されました(上記無効理由以外に、同法4条1項10号、同11号の無効理由についても争われましたが、いずれも該当しない旨の判断が下されました)。
ところで、クリニックの名称には、内科、小児科、産婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科など、いわゆる診療科名が含まれることが一般的であり、かつ、地名や「駅前」などの文言が含まれることも多く、さらには、開業医の名字を含むケースも少なくありません。
ここで、商標登録上の問題点として、診療科名は医業に関する分野において単に業種名を示すものであるため識別力が無いこと、地理的名称や立地を表す文字も識別力に欠けること、さらに、ありふれた氏も識別力が欠如することが挙げられ、全体として識別力のない商標と判断される場合があることです(ただし、特徴的な図形と結合している場合を除きます)。
上記事件では、「あおば」の部分が自他役務の出所識別標識としての機能を発揮し得るか否かが争点の一つとなりましたが、判決では「あおば」の文字が地理的名称を表したものと直ちに理解されるとはいえず、また、ありふれた氏にも該当しない(青葉の氏は全国で約1800名程度)とし、「緑色の、若葉、新緑」などの意味を有する語としても理解されることから、医業との関係において、役務の質等を表すものではないとして、識別力を有する部分であるとされました。さらに、医業の分野において、上記商標と同一の構成からなる名称が広く一般的に使用されているとはいえないことから、全体として自他役務の出所識別標識としての機能を発揮し得るものと判断されました。
なお、識別力が無い商標であれば、独占排他性が無く、原則として何人も自由に使用することができます。しかし、識別力の有無は画一的に判断できるものと、そうでないものとがあります。識別力のない単語を組み合わせた商標において、構成する個々の単語が一般に知られるものであっても、その構成全体として捉えた場合、一種の造語と理解されるケースもあり得ます。識別力があるかないかが微妙なケースでは、確認の意味を含めて、特許庁に商標出願してみるのも一手です。ただし、事前の調査で類似の先行商標がないことを確認しておく必要があります。