企業のブランド戦略として、単なる視覚的な効果だけでなく、記憶や印象に残るような音のブランディング効果を巧みに利用した事例が多く確認できます。平成27年4月から導入されている新しいタイプの商標(音商標、動き商標、位置商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標)のなかでも、タイプ別の内訳では、音商標の出願件数が最も多くなっている実情があります(J-Platpat、2026年3月時点での検索結果による)。
昨年中に設定登録された音商標を調べてみると、テレビCMやインターネット広告を通じて聞き馴染みのある事例が複数含まれています。例えば、「ようふくのあおやま」(登録第6921275号)、「あなたにい-ねをプロミス」(登録第7006844号)、「チョコモナカジャンボ」(登録第7019375号)などの例が挙げられますが、このうち、「ようふくのあおやま」(登録第6921275号)については、審査段階でいったん識別性が否定されて拒絶査定(商標法3条1項6号)となっており、その後に請求された不服審判において原査定の判断が覆り、登録に至っています。
ここで、商標法3条1項6号に関する商標審査基準には、音商標を構成する音の要素(音楽的要素及び自然音等)や言語的要素(歌詞等)を総合して商標全体として考察するとしており、このうち、音の要素については、例えば、需要者にクラシック音楽、歌謡曲、オリジナル曲等の楽曲としてのみ認識される音は識別力が認められないものとし、その具体例として、CM等の広告においてBGMとして流されるような楽曲は識別力が無いとされています。
<特許庁HPより> 『商標審査基準』八、第3条第1項第6号 11.音商標について
上述の「ようふくのあおやま」の例では、審査段階において、「『ようふくのあおやま』の言語的要素(歌詞)は、全体として『洋服の製造・販売に係る青山という氏』ほどの意味合いを理解させる以上に格別顕著なところはない。そうすると、本願商標をその指定商品又は指定役務に使用しても、これに接する需要者は、商品・役務の広告等において流されるBGMに用いられる楽曲の一種として認識するにとどまるため、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標と判断するのが相当」とされました。
しかしながら、審判段階(不服2024-004056)では、「本願商標は2小節で構成されており、メロディーがあるとしても、十分な長さがある楽曲と認められるものではなく、僅か4秒にも満たない本願商標は、店舗の雰囲気作りのために流されるBGMに用いられる楽曲とはいい難いものである。(中略)本願商標はメロディーからなる音の要素に請求人の業務に係る商品及び役務を表示する『洋服の青山』という商標を称呼した『ようふくのあおやま』の言語的要素(歌詞)を加えたものであるというのが相当」であるとし、「請求人に係る商標『洋服の青山』を称呼した『ようふくのあおやま』という言語的要素(歌詞)を有する音商標と認識させるものであり、自他商品及び役務の識別標識としての機能を果たし得るものと認定、判断できる。」としています。
なお、3条1項6号の拒絶理由に対しては、条文上、3条2項の「使用による識別性」の規定が直接的に適用されることはないものの、実務的には3条2項の規定が類推適用される傾向にあります。上記審判でも、取引の実情から「請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして広く使用されているといい得るものである。」として、商標の使用実績も考慮した審決が下されています。