企業のブランドイメージとキャッチフレーズ

アメリカで代替肉を取り扱う食品メーカーのBeyond Meat Inc.が、自社製品である植物由来のソーセージについて、「Great Taste Plant-Based」や「Plant-Based Great Taste」(植物由来だからとてもおいしい)のキャッチフレーズを用いて販売していたところ、同じくアメリカにおいて「WHERE GREAT TASTE IS PLANT-BASED」(おいしいものは植物由来)の文字からなる商標で「代用肉」などの商品を指定した登録商標(US Serial No. 86235017)を有する競合会社のSonate Corporation(Vegadelphia Foodsのブランド名で商品展開している企業)から商標権侵害の訴訟を提起され、3890万ドル(約60億2950万円)の支払いを命じられたというニュースがありました(Reuters 2025年11月26日)。

同業他社が似たようなキャッチフレーズを使用した場合、需要者が商品の出所を誤認混同するおそれが生じるだけでなく、企業努力により築き上げたブランドイメージの希釈化にもつながるおそれがあります。キャッチフレーズは顧客吸引力の要素の一つであり、戦略的に活用するのはもちろんのこと、商標法の下、適切な保護や管理が求められます。

ところで、我が国では、かつてキャッチフレーズの商標について、原則、識別力が無い(=拒絶理由に該当する)ものとして扱われていました。具体的には、『商標審査基準 第11版』の3条1項6号の規定の中で、「標語(例えば、キャッチフレーズ)は、原則として、 本号の規定に該当するものとする」と明記されていました。しかしながら、2015年から翌年にかけて特許庁で行われた商標審査基準ワーキングでの協議を経て、『商標審査基準 第12版』(2016年4月1日以降の審査で適用)からは上記の文言が削除され、「標語」および「キャッチフレーズ」の文言が「企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標」と言い換えられたうえで、3条1項6号の該当性についての判断基準が明示されました。なお、現行の『商標審査基準 第16版』でも、改正後の第12版における規定が引き継がれています。

因みに、改正前であっても、キャッチフレーズが全く登録されなかったというわけではなく、特に不服審判を請求した事案については、審査段階での判断が覆るケースも多かったとされています(産業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会 第12回商標審査基準ワーキンググループ議事録より)。逆に、改正後において、キャッチフレーズが一律に登録されるようになったということでもありません。商標の実体審査において、現行の審査基準の3条1項6号の規定(「指定商品若しくは指定役務の宣伝広告、又は指定商品若しくは指定役務との直接的な関連性は弱いものの企業理念・経営方針等を表示する標章のみからなる商標について」の規定)に基づき、識別力の有無について、個別具体的な判断が下されることになります。