長年にわたる営業努力や多大な宣伝広告費の投入により、需要者の間で広く知られ、高い名声や信用を獲得するに至った周知・著名商標は、顧客吸引力を備えた貴重な財産権であり、このような周知・著名商標については、第三者による不正な使用から保護する必要があります。我が国の商標法では、今から約30年前の平成8年の法改正により、以下の規定が不登録事由として明記されました。
商標法4条1項19号:他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)
平成8年の法改正前は、同法4条1項7号(公序良俗違反)や15号(出所混同のおそれ)の規定に該当する旨の解釈や運用がとられてきましたが、このような規定に頼らず、周知・著名商標と同一又は類似の商標については、不正の目的をもって使用するものは登録しないことを明確化したものであり、例えば、以下のような商標登録出願の排除を意図しています。
(1) 外国で広く認識されている他人の商標と同一又は類似の商標を、我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの。
(2) 外国の権利者の国内参入を阻止したり、国内代理店契約締結を強制する目的で出願したもの。
(3) 日本国内で全国的に著名な商標と同一又は類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくても、出所表示機能を稀釈化させたり、その名声を毀損させる目的をもって出願したもの。
(4) その他、日本国内又は外国で広く知られている商標と同一又は類似の商標を信義則に反する不正の目的で出願したもの。
<特許庁資料より> 「商標審査便覧」42.119.03 商標法第4条第1項第19号に関する審査について
ただし、「不正の目的」は内心の事項であり、審査官や審判官が直接感知することは一般に困難であるため、本号が問題となる場面としては、第三者から情報提供や異議申し立てがあった場合、利害関係人から無効審判が請求された場合などであり、かつ、以下のような事項を含む客観的な証拠資料が提示された場合であると考えられます。
① その他人の商標が需要者の間に広く知られている事実
② その周知商標が造語よりなるものであるか、又は、構成上顕著な特徴を有するものであるか
③ その周知商標の所有者が、我が国に進出する具体的計画(例えば、我が国への輸出、国内での販売等)を有している事実
④ その周知商標の所有者が近い将来、事業規模の拡大の計画(例えば、新規事業、 新たな地域での事業の実施等)を有している事実
⑤ 出願人から商標の買取りや代理店契約締結等の要求を受けている事実、又は出願人が外国の権利者の国内参入を阻止しようとしている事実
⑥ 出願人がその商標を使用した場合、その周知商標に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させるおそれがあること
なお、上記のような事実を示す証拠資料が無くても、以下のようなケースでは、不正の目的をもって使用するものと推認し、本号を適用すると規定されています。
① 一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するものであること。
② その周知な商標が造語よりなるものであるか、又は、構成上顕著な特徴を有するものであること。
<特許庁資料より> 「商標審査基準」十七、第4条第1項第19号(他人の周知商標と同一又は類似で不正の目的をもって使用をする商標)